読売新聞の報道(2017年10月25日16時53分)によると、「パイロットコーポレーション」と「三菱鉛筆」との間で、消せるボールペンをめぐる特許訴訟が起こっているそうです。このような報道に触れると、つい色々と調べてしまうのですが、公開されている情報から現時点で分かったことをメモ程度に記載しておきます。
上記報道でも説明されているように、三菱鉛筆は、パイロット側が保有するフリクション関連のある特許を無効とするように特許庁に無効審判を請求しています。当該請求は特許庁では認められたのですが、その後、知財高裁にて覆されて、その判決(平成29年3月21日 平成28(行ケ)10186号事件)は確定しています。
上記報道では明記されていないものの、パイロットが三菱鉛筆に対して行った差止請求の根拠とした特許権は、上記無効審決で争われた特許権と同じものなのでしょう。だとしたら、対象となっている特許権は、特許第4312987号であることになります。
そして、上記知財高判平成29年3月21日(平成28(行ケ)10186号)の判決(および第4312987号特許の成立経緯)を調べると興味深いことが見えてきます。
第4312987号特許は、審査段階で自社の出願である特開2001-207101号公報(引用発明1)に基づいた拒絶理由を解消するために「エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれる摩擦体が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてなる」という限定を加えたのちに特許査定を受けています。
そして、知財高裁での判決でも「本件発明1が,エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ,摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が,筆記具の後部又はキャップの頂部に装着されてなるのに対し,引用発明1は,特定していない点」が相違点5であるとされ、この相違点5に係る容易想到性の判断が誤りであるとの判決がされているのです。
ここで着目したいのは、三菱鉛筆が販売している「ユニボールアールイー(uni-ball R:E)」と、パイロットが販売している「フリクションボールノック」とは、ノックの方式が異なるという部分です。
〇uni-ball R:Eのノック方式
〇フリクションボールのノック方式
つまり、三菱鉛筆の製品とパイロットの製品では、第4312987号特許の特許性を分けた構成部分(相違点5)が異なるのです。三菱鉛筆としては、uni-ball R:Eが採用している構成は、摩擦体が筆記具の後部又は、キャップの頂部に装着されてはいないとの判断なのでしょう。
三菱鉛筆とパイロットは、過去にも消せるボールペンをめぐる特許訴訟を行っています(参照)。したがって、両社は、互いの特許取得に関して監視していたはずです。また、本件の場合、三菱鉛筆は無効審判を請求しているのですから、第4312987号特許の存在を知らないわけもなく、たとえ第4312987号特許が無効であることに絶対の自信があったとしても、侵害を回避した(と自らは判断した)製品を販売するのが通常でしょう。
だとすると、三菱鉛筆が何の対策も考えていなかったはずもなく、三菱鉛筆が今後どのような反論をするのかが興味深くなってきました。
(追記)
パイロットコーポレーションの発表によると、仮処分の申立の根拠としたのは、上記のように第4312987号特許でした。
ちなみに、パイロットコーポレーションの発表は、平成29年(2017年)9月29 日であり、少し前のものでした(上記読売新聞の配信は10月25日)。しかも、仮処分の申立は、平成29年7月18日だったようです。
また、三菱鉛筆は、この仮処分の申し立てに対し、反訴的な無効審判請求(無効2017-800125)を行っているようです。なお、この無効審判請求は、上記知財高裁の判決によって覆された無効審判請求(無効2014-800128)とは異なるものです。
やっぱり、三菱鉛筆は、第4312987号特許が無効であることに自信があり、自社製品(uni-ball R:E)は、第4312987号特許の権利範囲に属さないと考えているのでしょう。
追記(和解成立)
本件は、2018年2月14日に和解が成立したそうです。気付くのが遅くて申し訳ありません。